【第3回】マッスルバック | マイナビブックス

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ゴルフプラネット 第44巻

【第3回】マッスルバック

2016.10.27 | 篠原嗣典

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マッスルバック

 

「何でマッスルにこだわるんすっか?」と後輩に呆れ気味に質問された。もちろん、マッスルというのは筋肉ムキムキのことではなく、アイアンのバックフェースのことだ。

 

 書くまでもなく、世界最高の選手が集まる米ツアーでさえ、マッスルバックを使用している選手は数えるほどしかいない。ほとんどの選手のアイアンは程度の差はあってもキャビティーバックである。

 

 マッスルへのこだわりはある。単純に好きなのである。

 

「まあ、そう遠くない将来にキャビティーになるよ。俺も」と答えた。それは本音である。

 

 地面からボールを打つアイアンは1970年代頃に基本性能部分が完成され、1980年代から大きな変化がない。設計技術の向上で、クラブのパフォーマンスを最大限まで引き出すことも、この20年で限界まできていると言われている。

 

 そういう歴史的な背景も手伝って、実は、マッスルバックのアイアンとキャビティーバックのアイアンに大きな差はない。マッスルバックはスポットの広さという意味で易しくなったし、クラブによってはキャビティーバックより球が上がりやすいものすらある。

 

 マッスル=難しいという図式は、あくまでもイメージであり絶対的なものではないのだ。強いて言えば、マッスルバックは色々な弾道が打ちやすいことが特徴になっているアイアンという機能面で分類すべきで、心理面でのプラスマイナスで分類すべきではないと思っている。

 

 むしろ、そんな分類より、アイアンのクラブとしての役割を明確にできていれば問題はないのである。アイアンは距離を打ち分ける道具である。

 

 距離を打ち分けることを大前提に、他の機能を考慮しながらアイアンは選ばれるのが正しい。

 

 私がマッスルのアイアンにこだわっているのは、まずは、飛ばなくとも良いということだ。何番アイアンが○○○ヤード飛ばなければ、とかいう基準は持っていない。適正な番手間の距離はしっかりと出さえすれば良いのである。

 

 それよりも、弾道の打ち分けがしやすいことを優先している。キャビティーバックは左右の打ち分けは出来るものもあるが、高低の打ち分けが上手くできない。これは距離の打ち分けには大きなプラスになるが、弾道を打ち分けで距離感の足しにしている場合にはマイナスである。

 

 将来的にキャビティーバックになると思っているのは、全体的な距離が落ちてくると予測しているからだ。弾道の打ち分けは番手間の距離差が大きければ大きいほど効果があるが、全体の距離が落ちてくれば、番手間の距離差は小さくなる。そうなれば、自然とマッスルバックの特性を使う意味がなくなる。

 

 キャビティーのアイアンの特徴の1つは高い弾道で、しっかりとボールを飛ばすことがしやすいことだ。全体的に飛ばなくなったフォローもしやすいと推測できる。

 

 マッスルバックへのこだわりなどは、単なる見栄に過ぎない、という人もいる。そういう側面があることも事実である。

 

 最終的に、私は使いこなすのには技術が不可欠だということにこだわっているのだと思う。そういうことも含めて、今のところ使えると感じているわけだ。

 

 自分のゴルフのスタイルというか、考え方が露呈している部分だとも考えるときがある。冒頭に質問してきた後輩は、キャビティーバックのアイアンがバックに入ってきたら本気になってきたという証拠になるんっすね、と感想を言った。彼から見れば、私がマッスルバックで損をしているように見えるのだろう。キャビティーバックなら楽なのに、というシーンで苦戦する私を見たという体験もあるかもしれない。スコアが一番目じゃない、と自分自身に言い聞かせている痩せ我慢だとしても、それは望むところだと迷わずに思える。

 

 自分のロマンを貫くのは大変である。あまりにも非現実的なこだわりは、ゴルフでは他人の迷惑になることがある。ゴルファーとして、最後のラウンドまでマッスルバックが好きなんだよね、と渋く使いこなすゴルファーになれたらなぁ、と願うが、現実がそれを許してくれないだろうとも覚悟をしている。

 

 ミズノのMP-68が欲しいと切望している。たぶん、私のゴルフ人生で最後のマッスルバックになるだろう。色々な想いが交錯するクラブ選びの悩みは、ゴルファーにとって夢見る時間であり、幸福な時間なのである。

(2010年1月22日)

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